人工呼吸管理で加温と加湿は大切
目次
-----------------------------------------------
1 加温と加湿の必要性
2 温度と湿度
3 理想の加温と加湿
4 人工鼻について
5 人工鼻の種類
6 加温加湿器について少し
7 結露と相対湿度
-----------------------------------------------
1 加温と加湿の必要性
乾燥したガスを患者に送気すると気道粘膜を乾燥させてしまう。
さらに気管挿管や気管切開されている患者にとっては本来上気道が行っている加温と加湿ができないため、気道分泌物が粘稠になる。無気肺形成の原因にもなるし、チューブ閉塞の原因にもなりうるため危険である。
乾燥ガスが気管に入ることによる弊害をまとめてみると
・気道粘膜の乾燥
・線毛運動の低下
・気道分泌物の粘稠化
・無気肺形成
・チューブ閉塞
となる。
2 温度と湿度
人工呼吸器管理における加温と加湿についてであるが、まずは基礎知識を整理してみる。
絶対湿度と相対湿度のイメージであるがこの図(from Intensivist)がわかりやすい。
絶対湿度(Absolute humidity:AH)とはガス1L当たりに含まれている水蒸気の量であり、単位はmg/L。上の図のように37℃では44mg/Lである。つまりこの44mg/Lは37℃での最大水蒸気含量である。
それに対して相対湿度(Relative humidity:RH)とはガスがどのくらい水蒸気で飽和されているかであり、最大水蒸気含量に対しての割合なので単位は%である。
さらに標準温度(0℃)にあるガスを標準状態(Standard temperature and pressure,dry:STPD)という。STPDのガスが室温(20℃)まで温められた状態を室温乾燥状態(Ambient temperature and pressure,dry:ATPD)という。また、水蒸気で飽和された状態を室温飽和水蒸気状態(Ambient temperature and pressure,saturated with water vapor:ATPS)、体温(37℃)まで温めた状態を体温飽和水蒸気状態(Body temperature and pressure,saturated with water vapor:BTPS)という。これもIntensivistに載っている表を掲載する。
3 理想の加温と加湿
これに関しては統一した見解はなし。
通常は上図のように上気道で加湿され、気管分岐部付近で温度37℃、相対湿度100%、絶対湿度44mg/LのBTPSとなる。BTPSの空気が気管チューブを介して供給されて肺胞に届くことで下気道での水分喪失を防ぐことができる。
4 人工鼻について
人工鼻は加温加湿の受動的システムである。
英語ではHeat and Moisuture Exchanger:HMEという。つまり、患者の呼気中の温度と湿度を捕らえて蓄えるシングルユースの器具のことである。吸気では人工呼吸器からの乾燥したガスを加温加湿してくれる。
この人工鼻の利点としてはまずシンプルで使いやすいことにあり、移動や搬送のときにも使用可能である。
・短時間の人工呼吸管理
・死腔が問題にならないとき
・在宅人工呼吸器
・空気感染や飛沫感染の危険性があるとき
などが人工鼻が有利となる状況である。
ただ死腔には注意が必要である。人工鼻のサイズを間違えると死腔が増大するため、再呼吸が生じる。逆に小さいものを使用すると加湿不足が生じてしまう。さらに長期間の人工呼吸器管理となると加温加湿器の方が加温加湿に優れているため人工鼻の使用は短時間の使用が望ましい。小児では挿管チューブのLeakがあることが多かったり、死腔が問題になることが多いため使用されることはほぼない。
5 人工鼻の種類
まずはハイグロバックS。推奨される1回換気量は150~1200ml。死腔:45ml。
ハイグロボーイは下。推奨される1回換気量は75~300ml。死腔:26ml。
次はハイグロベビー。推奨される1回換気量は30~100ml。死腔:10ml。
最後はハイグロライフⅡ。推奨される1回換気量は100~1000ml。死腔:29ml。
6 加温加湿器について少し
人工呼吸器についていてよく目にするもの。
英語ではHeated Humidifier(HH)。加温加湿発生装置で蒸留水を加温し、水蒸気を発生させることで呼吸器を加湿できるもの。一般的には熱線が組み込まれており、口元温でモニタリングされている。
基本的にはオートモードなどでこちらが操作しなくてもきちんと加温加湿されているが、回路が複雑になりヒヤリハットの事例の報告もあるため注意が必要である。
そのため在宅呼吸器や人工呼吸器でHHを使用するのであれば構造とメカニズムの理解をしておかなければならない。これに関しては後日書くことにする。
軽く図を載せておく。
7 結露と相対湿度
最後に結露について。
このF点のガスが点Gのように温度が下がるとき、44mg/Lの水蒸気が30℃に冷やされることで30mg/Lまでしか受け取れられず14mg/Lの水蒸気が水になってしまう。これが結露である。
つまりこのときは相対湿度は100%となる。
水がたまることで水が気管内に入ることがあったり、グラフィックモニターに揺れが生じてミストリガーが生じて過換気になったり、トリガーが過剰にされてしまうため本人の不快感はかなり強くなる。
乾燥は絶対によくないが結露が生じるのもいいことではない。